耽美で倒錯的なクィアな若者たちによる探求のビジュアルノベル『Mediterranea Inferno(メディテラネア・インフェルノ)』プレイレポート

朝比奈 / Asahina

2023/12/24

2024/03/07

Mediterranea Inferno(メディテラネア・インフェルノ)』は、南イタリアの避暑地を舞台に、20代の3人の若者たちの友情・欲望・哀しみを描いた鮮烈なビジュアルノベルだ。

世界中で猛威を振るった、新型コロナウイルス感染症によるパンデミック。ロックダウンと外出禁止令が解除されたことを機に、クラウディオアンドレアミダの親友3人は2年ぶりの再会を祝して3日間のバカンスに旅立つ。彼らは、そこで出会った謎の人物との邂逅を経て、自身の本質を見つめていくことになる。

男性同士の不安定で複雑な恋愛模様を描いた、前作『Milky Way Prince – The Vampire Star(ミルキーウェイ・プリンス)』から約3年。クリエイターのLorenzo Redaelli氏によって再び届けられた、その独特の世界観のプレイレポートをお届けしよう。

Mediterranea Inferno on Steam
Explore the inner demons of three childhood friends on a summer retreat. Unearth secrets, fears and obsessions as you help them reconnect and rediscover themselves. A mature and treacherous visual novel from the creator of Milky Way Prince – The Vampire Star.

蜃気楼の向こう側に自身の本質を見る

クラウディオ、アンドレア、ミダ。

"サン・ガイズ(太陽の子供たち)"と呼ばれ、パンデミック前の地元ミラノではセレブでセクシーなアイコニックな存在だった。しかし、彼らは満たされているようでいて、互いに共有することのない秘めた"痛み"を抱えていた。

だが、幻のように現れた謎の人物マダマから勧められた「ミラージュ(蜃気楼の果実)」を口にして、強烈なトリップをしたかのようなビジョンの中へと入り込み、探索することで自分の本質と向き合っていくことになる。

――特別に強調するつもりはないが、彼らはクィアな存在だ。LGBTに当てはまらない性的マイノリティを含有する概念的なものを指す。筆者はその本質を正しく捉えて表現できていないかもしれないが、本作はそうした流動的で、変容する存在である彼らの探求の姿が描かれているように感じた。

本作のゲームシステムは、画像に合わせてテキストが表示されるビジュアルノベル形式だ。ただ読み進めるだけでなく、選択によって展開が分岐したり、画面内をポイント・アンド・クリックすることで変化や隠されたものが現れたりするインタラクティブな要素も含んでいる。

バカンスは8月15日までの3日間。選択肢によって得られる「サマーコイン」を対価にマダマから「ミラージュ(蜃気楼の果実)」を手に入れ、最終日までに4つを口にすることが目的。誰を優先するかはプレイヤー次第だが、それによってストーリー展開や結末も変化していく。

▲全てのミラージュに1枚ずつ隠されている「サンティーニ・カード」

ただし、本作はわかりやすい物語ではない。

プレイヤーはあくまで傍観者。選択肢によってわずかに干渉できても、3人の行動そのものを思い通りに動かすことまではできない。平然とドラッグを手にし、軽犯罪も犯す。倒錯的な行動を取る彼らから、選択の結果を予測することは容易ではないのだ。

ビビットなカラーで表現されたアートワークや、突拍子もない(彼らにとってはそうではないが)姿から異質な作品に見えるが、その実はコロナ禍の若者に訪れた分断や孤独といった出来事を根底にした繊細な物語が描かれている。現実とクロスオーバーする本作は、実は私たちにとっても共感できる部分も多いのかもしれない。

▲ミラージュを口にして見るビジョンは強烈な色彩を放つ

理解者の手からなる翻訳

本作の翻訳を担当されたのは、前作『Milky Way Prince – The Vampire Star(ミルキーウェイ・プリンス)』の新訳を手掛けた、ラブムー名義で活動されているライター/英日翻訳者の堀内愛月氏だ。

詳しくは弊誌のプレイレポートをご覧いただきたいが、前作は当初実装されていた日本語翻訳のクオリティにやや問題があり、それから3年後の2023年7月にラブムー(堀内)氏の手による新訳に差し替えられたという経緯がある。

不安定で複雑な恋愛模様『Milky Way Prince – The Vampire Star(ミルキーウェイ・プリンス)』日本語新訳版 プレイレポート
『Milky Way Prince – The Vampire Star(ミルキーウェイ・プリンス)』日本語新訳版は、境界性パーソナリティ障がいと依存関係の共感覚を描いた恋愛ビジュアルノベルゲームだ。

オリジナルの原文からしてその傾向を持っているが、Lorenzo Redaelli氏の手による、詩的で情緒感のあるテキストは今作においても踏襲されている。

表現力の向上とともに登場キャラクターも増加し、ワード数は倍以上はあるだろうか。それぞれに異なる個性的なキャラクター像を捉えたものとなっていて、先述のとおり彼らの行動こそ読めないが、その心理は伝わってくるかのようだ。

作者の世界観を深く理解するからこそ仕上がった素敵な翻訳、そういう印象を筆者は持っている。

なお、ラブムー(堀内)氏のnoteでは、本作『Mediterranea Inferno(メディテラネア・インフェルノ)』のデモ版を翻訳された当時の様子が、本作の紹介も踏まえて公開されているので併せてご覧になってはいかがだろうか。

その分析的な視点は、本作を理解する上できっと助けとなってくれるものと思う。


基本情報 Mediterranea Inferno
(メディテラネア・インフェルノ)
開発 Eyeguys, Lorenzo Redaelli
販売 Santa Ragione
配信日 2023年8月25日
2023年12月19日 / 日本語サポート
定価 1,700円(Steam

この記事で紹介されているゲーム

Mediterranea Inferno

アドベンチャー

2023年8月25日
日本語対応
¥1,700

Milky Way Prince – The Vampire Star

インディー

アドベンチャー

2020年8月13日
日本語対応
¥1,700
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発売日2020年8月13日
ジャンル
アドベンチャー
インディー

カテゴリ
シングルプレイヤー
Steam実績
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Milky Way Prince – The Vampire Star

退屈な夏のある日、ぼくはミルキーウェイ・プリンスと出会った——境界性パーソナリティ障がいと依存関係の共感覚を描いた傑作恋愛ノベルゲームに、待望の日本語新訳版が登場! 闇(病み)王子との緊張感あふれる対話と「交感システム」を通じて、尋常ならざる愛の夏に飛びこもう。

恋愛対象への理想化、依存関係、境界性パーソナリティ障がいの共感覚を描いた、斬新、鮮烈、詩的なノベルゲーム。



恋愛対象への理想化、依存関係、境界性パーソナリティ障がいの共感覚を描いたノベルゲーム。マルチエンディング、予期せぬ展開と急激な変化、五感を選択する斬新なシステムを通じて、あなたはボーイフレンドと尋常ならざる愛の夏を過ごす。しかしあなたは彼のパーソナリティとその過去を知るうちに、あらゆることに疑問を抱くようになる……。

エモ旋風〜銀河系の王子が空から降ってきた!?〜


『ミルキーウェイ・プリンス』は若き作家ロレンツォ・レダエリが、ゲームデザイン、プログラム、イラスト、音楽のほとんどを手がけた半自伝的物語である。

これは実体験に基づいた物語——


「境界性パーソナリティ障がいを持つパートナーとの恋愛において、恋に落ちることは連星系の一部になるようだ、と感じていました。それは宇宙において、もっとも貴重かつ希有な経験です——ただ、当の2人が近づけば近づくほど、彼らはいっそう不安定になっていくのです」(レダエリ)



「僕のアイデアは、プレイヤーが、この普通ではない関係のダイナミクスを理解することを求められるような、没入感のある体験を作り出すことでした。交流するキャラクターは、プレイヤーのふるまいに呼応します——学術用語を使うなら、彼らは「レイジ・テスト」とか「ラブボミング」、あるいは罪悪感を感じさせるような行動を取ります。そしてストーリーは、「依存」や「興味」といった変化、互いの交流によってだんだん変化していくのです」(レダエリ)

ハイライト


  • 半自伝的ダークロマンス・ラブストーリー
  • 予測できないストーリー分岐と驚きのマルチエンディング
  • 全く新しい共感覚をもたらす交感システム
  • 丸尾末広と湯浅政明にインスパイアされたキャラクターデザイン
  • ロバート・ウィルソンの影響を受けて作られた3Dステージデザイン
  • 五感に訴えかけるエレクトロ&バロックなサウンドトラック