自由を尊重する体制が重要。ヒット作を連発するチームが語るゲーム開発秘話 『Anger Foot』開発Free Lives ステージイベントレポート【BitSummit Drift】

ばんじーよこすか

2024/08/04

2024/09/14

2024年7月19日~21日(一般公開日は20~21日)にかけて、京都みやこめっせにて日本最大級のインディーゲームの祭典「BitSummit Drift(ビットサミット ドリフト)」が開催された。

本稿では、会期中に開催されたステージイベントから、超ハイペースFPSゲーム『Anger Foot』の開発を手掛けたFree Livesによる開発秘話についてお伝えする。

BitSummit | 毎年京都で開催している日本最大級のインディーゲームの祭典 です / Japan’s Industry-Leading Independent Game Development Festival in Kyoto
毎年京都で開催している日本最大級のインディーゲームの祭典 です / Japan’s Industry-Leading Independent Game Development Festival in Kyoto

犯罪至上主義の街でドアや敵を蹴りまくれ

Anger Foot』は、ギャングたちの街でスニーカーコレクションを盗まれた男「アンガーフット」となり、大切なコレクションを取り返しにキックと銃で大暴れするハイペースFPSゲーム。開発は、南アフリカを拠点とするFree Livesが手掛ける。

Free Livesは2012年に設立されたゲームスタジオで、これまでに『GORN』や『Broforce』などを手掛けてきた。本作は、Free Livesのメンバーのうち7名で開発されている。

Steam:Anger Foot
『Anger Foot』は、ケツを蹴り上げることが何よりも最高とされる超ハイスピードなアクションFPSだ。

今回のステージイベントでは、Robbie Fraser氏、Jem Smith氏、Luc Wolthers氏、Anja Venter氏が登壇。本作の開発秘話をメインに、Free Livesがゲーム開発において大事にしていることなどを約30分間語った。

登壇メンバーについて紹介された後に、メンバーが順番に本作の開発にかかるストーリーを語った。なお、筆者は本作の翻訳とLQAを担当しているので、ゲーム内容なども補足しながらご紹介できればと思う。

シリアスなゲームは作りたくなかった

Robbie Fraser氏は、どんなゲームを作りたかったという開発意図をメインに話を展開。とにかく、プレイヤーをイライラさせないことを重視したとのこと。そのための工夫について、以下の2点を語った。

1つ目は、レベルの長さだ。本作は、いわゆるステージ制になっており、1つのステージ(本作ではレベルという)は、数十秒から長くても数分程度でクリアできるようになっている。また、1発当てれば倒れる敵がメインで、一度倒れたとしても1クリックですぐにやり直せるようになっている。マップや敵の配置のランダム性をなくすことで、やり直すときにどう動けば倒せるか戦略を立てやすくしたのだそうだ。

▲チーズやトマトソース、ピザを愛するゴロツキ。チーズ自体は確かに存在しているが…。

2つ目の工夫は「sense of joy」、日本語にすると、喜びやワクワク感、笑顔、心が明るくなることなど指すだろう。この最たる例が、プレイヤーが倒されたとき、敵のゴロツキたちがプレイヤーを煽るように踊るダンスだ。これは、敵に倒されたときに悔しくて泣くのではなく、倒されても笑ってほしいからなのだそう。

他にも、レベルの間に差し込まれているダイアローグパートでゴロツキたちがしゃべる台詞はほぼジョークである。ゲーム内の色んな場所にいるガイコツや、キャラデザイン、ぶっ飛んだ能力を持つシューズなど、プレイヤーが笑ってくれるようなさまざまな要素を盛り込んだそうだ。このようなジョークはFree Livesの普遍的なテーマでもあり、今回もシリアスなゲームは作りたくなかったとのこと。

▲幹部専用のエスカレーターの前にいるゴロツキ

さまざまなプレイスタイルを実現するシューズ

Jem Smith氏は、主にシューズ関連の設計について語った。本作では計23足のシューズが用意されている。このシューズは大きく分けてプレイが簡単になるシューズと、プレイが難しくなるシューズの2種類がある。

例として挙げられたのが、ソウルサッカーズ。このシューズを履いていると、ただプレイしているだけではHPが減っていく。しかし、敵を倒すたびにHPは全回復するのだ。加えて、キッズサイズについても言及。キッズサイズは、かなり小さい赤ちゃん用シューズ。これを履くとプレイヤーの身長はものすごく小さくなり、通常行けない場所も進めるようになる。

▲敵をスルーできないシューズ

今回のイベントでは紹介されなかったが、キックをするたびに弾丸が増えるというまるでゲームのクリア特典のようなシューズや、ヘドロなどの液体の上を歩けるようになるシューズも存在する。

本作では、レベルごとに2つのオプション・チャレンジが用意されている。レベルやオプション・チャレンジをクリアするたびに1つのスターをゲットでき、スターを5つ集めるとシューズを1足アンロックできるのだ。

Jem Smith氏は、このようなさまざまなタイプのシューズを用意することで、プレイヤーがプレイスタイルを変えるきっかけになればという思いがあったとのこと。

▲アンガーフットの足のサイズは自由自在

音楽を軸に制作したアート

Luc Wolthers氏は、主にアートディレクションについてお話しされた。Free Livesはゲームを開発する際に、プリプロダクション(本格的にゲームを開発する前のプロトタイプ製作)をあまり行わない。ゲームのアートディレクションをする上で「ゲームは動く列車のようなものであり、進行するにつれて、私たちは列車が進む方向に線路を配置するだけ」とよく話すのだそう。

本作の場合は、ゲーム音楽がアートディレクションをする上で一番大きな指針となったのだそうだ。例えば、エストニア出身のラッパーであるトミーキャッシュのミュージックビデオや、90年代のオトナ向けのアニメ『スポンジ・ボブ』などのグロテスクな雰囲気かつ楽しくて軽やかなイメージでアイデアをクリエイトしてきたそう。

▲ゲーム冒頭のシネマ部分

次に、初期のキャラのデザイン画が公開された。はじめは、アニメのキャラクターのようにかわいらしくするために、敵の頭を動物モチーフにした。しかし、本作の開発が進むにつれて、ゲーム全体の良い意味のバカバカしさというテーマを踏まえて、動物以外のモチーフも取り入れることに。火炎瓶の頭で火炎放射器を持つ敵や、中指を立てている手のひらが頭部のモチーフとなっている敵もデザインされた。

また、本作の舞台は携帯電話が登場する直前の2007年、アンダーグラウンドミュージックが主流になろうとした頃であり、その設定はゲーム内に登場する建物やインテリア、ポスターなどを作成する上でも非常に重要な要素であったとのこと。

本作でたくさん登場するドアのデザイン画や、最終的には採用されなかったギャングのコンセプト画も公開された。気になる方は、ぜひアーカイブを確認していただきたい。最後に、初期のデザイン画と一緒に本作の冒頭に流れるシネマ部分の映像が流され、客席からは自然と大きな拍手が沸き起こっていた。

▲とにかく汚いポリューション・ギャング
▲快楽主義のデボーチェリー・ギャング

魅力的なゲームを製作するために大切なこと

最後に、Anja Venter氏によるゲーム開発プロセスにまつわる話をご紹介しよう。約2年前にFree Livesにプロデューサーとしてジョインした彼女が重要視していたのは、Free Livesの名の通り、「クリエイターの自由を尊重する」ということ。

例えば、締め切りについてなるべく議論しないようにしていた。彼女がチームにジョインする前から、かなり自由に開発が続けられており、その自由こそがクリエイターのアイデアを大胆にゲームで表現するために重要であると考えていたからだそう。

本作が魅力的なものになったのは、チーム全体が制作を楽しんでいたからだと、彼女は振り返る。実際に、Robbie Fraser氏によるXのポストや、Free LivesのVlogでもチームの良い雰囲気が感じられる。

他には、Free Livesが1つのアイデアを元にゲームを開発するまでのプロセスや、『GORN』の口コミ数や売上数の推移も公開された。このようなデータはかなり貴重なものなので、こちらもアーカイブからチェックしてほしい。

『Anger Foot』は、Steam版が絶賛発売中。本作の開発でもキモとなった音楽を収録したサウンドトラックも発売されている。開発チームFree Livesによる開発秘話を読んで、本作が気になった方はぜひチェックしていただきたい。

Steam:Anger Foot
『Anger Foot』は、ケツを蹴り上げることが何よりも最高とされる超ハイスピードなアクションFPSだ。
Anger Foot Soundtrack on Steam
Enjoy a concussive, bass-thumping attack on your ears with this 24-track Anger Foot soundtrack composed by Jason ‘Jaybooty’ Sutherland.
基本情報 Anger Foot
開発 Free Lives
販売 Devolver Digital
配信日 2024年7月12日 / 日本語有り
定価 2,800円(Steam

この記事で紹介されているゲーム

Broforce

アドベンチャー

カジュアル

インディー

アクション

2015年10月15日
日本語対応
¥1,700

GORN

インディー

アクション

2019年7月18日
¥2,300

Anger Foot

インディー

アクション

2024年7月12日
日本語対応
¥2,800