本稿は事前にレビューキーをご提供いただき、執筆しています。
『デンパトウ』は、アンテナを栽培して電波を集め、テレビを見ることで過去の記憶を取り戻す農場シミュレーションアドベンチャーゲームだ。日本の個人ゲーム開発者"トロヤマイバッテリーズフライド"氏が手掛ける。
2023年のBitSummitにおいて、同氏が並行して開発を手掛ける『Death the Guitar』が朱色賞<大賞>を受賞したことで注目を浴びたことは記憶に新しく、同作のリリースを期待されている方もいらっしゃるのではないだろうか。
そんなポップ&バイオレンスなスタイルからは打って変わって、エモーショナルな雰囲気を感じさせる本作をご紹介しよう。
なお、本作はもともと2024年1月19日のリリース予定となっていたが、その直前に諸般の事情により配信延期となっていたもの。この度、2024年5月17日にあらためてリリースされた形となる。
記憶を求めてアンテナを栽培する
本作のストーリーは、アンテナを栽培して出荷しているという不思議な農場で目覚めた記憶喪失の主人公が、そこで出会った言葉を話すブラウン管のテレビと共に、農場で働きながら記憶を取り戻そうとしていくという物語だ。
限られた色調で描かれるドット絵と4:3固定の画面比率。ブラウン管やCRTモニターに映したような走査線(効果OFFも可能)、8bitサウンド風のBGMやSEなどレトロ感あふれる表現が特徴となっている。
ゲームシステムとしては、アンテナの苗を作って畑に植え、円形状の「パラボラ(アンテナ)」で感知して空中のデンパ(電波)を収集。それを肥料として与えて育てていくというもの。
育てるアンテナは5種類。よく住宅の屋根にある魚の骨のような「VHFアンテナ」などがモチーフのようだが、成長するとまるで植物を思わせるような姿に育っていく。苗は同時に6本まで植えられるが、種類や与えたデンパの量によって成長速度が異なり、収穫効率も変化するのは面白いところ。
そうして十分に育ったアンテナを収穫すると、放出された「デンパ」をしゃべるテレビが吸収することで「テレビ番組」を見ることができる。番組を選ぶことはできないが、そこには主人公の過去に関するものと思しき内容が映し出されることがあり、そういった形で少しずつ秘密が紐解かれていく。
それがエンディングに影響することがSteam上でも明示されているものの、ゲーム側から急かされるようなことはない。装備を強化したり、育成と収穫の効率を考えたりして積極的に動いていくかはプレイヤーに任されているので、自分のペースでプレイを進めていくことができるという印象だ。
しゃべるテレビとの共同生活
記憶を失っていると言っても主人公に悲壮感のようなものはなく、効率を気にしなければ比較的のんびりとゲームを進めることが可能。日々の農場での仕事の合間に、共同生活を送るしゃべるテレビとの会話が楽しく、小気味よい口調でさまざまな話題を提供してくれる。
失われた記憶を求めるという目的に隣り合うかのように、こうした日常的なシーンが挟まれているところがまた良い。こうしたバランス感というのは意外と難しいもので、期待した作品とはなかなか出会えないことも多い。
本作はその点において成功している印象で、こうしたゆるやかな時間や、エモい雰囲気を好むプレイヤーはぜひプレイしてみることをおすすめしたい。
きっかけはテレビ番組の企画
『デンパトウ』は、本作をパブリッシングするBSテレビ東京にて放送中の『東京パソコンクラブ ~プログラミング女子のゼロからゲーム作り~』の番組企画として始まったものとのことだ。
現在では同番組の講師役も務めているトロヤマイバッテリーズフライド氏の、番組出演から制作に至った経緯などが自身のnoteにて公開されている。原型となった当時の企画書なども公開されているので、併せてご覧になってみてはいかがだろうか。
最後に、本稿の冒頭で触れた同氏が現在開発中の『Death the Guitar』については、2024年1月20日~21日に東京都立産業貿易センター 浜松町館にて開催された「東京ゲームダンジョン4」での試遊の模様を別記事にてご紹介しているので、そちらも併せてご覧いただければ幸いだ。
基本情報 | デンパトウ |
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開発 | トロヤマイバッテリーズフライド |
販売 | 株式会社BSテレビ東京 |
配信日 | 2024年5月17日 / 日本語有り |
定価 | 980円(Steam) |